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勝手気ままな映画レビュー

映画「バイス」(2019/04/05公開)&「記者たち~尊敬と畏怖の真実~」(2019/03/29公開)同時レビュー

バイス」&「記者たち~尊敬と畏怖の真実~」同日鑑賞

 

 映画「バイス」(2019/04/05公開)と「記者たち~尊敬と畏怖の真実~」(2019/03/29公開)を同日に観てきました。

 

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 この2作品を同日に観れないかなと思っていたところ、同じ映画館で同時期に上映されていたので、観に行ってきました。

 

 何故、この2作品をほぼ同時に観ておこうかと思ったのかは、この2本の映画は”9.11同時多発テロからイラク戦争に突き進む”アメリカ政府のウソと真実”という同じテーマを、まったく別の角度から、浮き彫りにしようとする映画だったからです。

 

 ほぼ同時に比較参照するということで、レビューも同じ俎上に載せてみます。

 

バイス」キャスト陣の圧巻たる化け具合

 

 まず、「バイス」は、カメレオン俳優クリスチャン・ベールが、相変わらずの”デニーロ・アプローチ”で20kg増量+5時間要の特殊メイクで、見事に実在の元アメリカ副大統領”ディック・チェイニー”本物そっくりに化けたことが話題になりました。

 

 で、よく見ると、脇を固めるサム・ロックウェルの元米国大統領”ジョージ・W・ブッシュ”やスティーヴ・カレルの元米国国防長官”ドナルド・ラムズフェルド”も、これまた、本物と見まごうばかりの化け具合に驚嘆します。

 

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Christian Bale as Dick Cheney

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Sam Rockwell as George W.Buch

 

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Steve Carell as Donald Rumsfeld

 

アメリカ”副”大統領をクローズ・アップ

 

 このアメリカ政府を痛烈に風刺する「バイス」という映画は、世界最強権力者たるアメリカ大統領ではなく、滅多に表に出てこないはずのアメリカ”副”大統領をクローズ・アップした映画です。

 

 アメリカ副大統領なんて閑職とも呼ばれる役職で、歴代の名前をあげようにも、思い出せもしないような立場のはずなのに、この”ディック・チェイニー”だけは、他の副大統領とは一線を画す存在だったようです。

 

 この映画の内容が真実で、当時のアメリカ政府の内情がこの通りだとすると、当時のブッシュ政権は、副大統領”ディック・チェイニー”による傀儡と言ってもおかしくはない政府だったということになります。

 

 そして、”ディック・チェイニー元副大統領”は、こんなカタチでネガティブに取り上げられたということは、副大統領として、他に例のないほどの悪名をとどろかせたということに他ありません。

 

副大統領”ディック・チェイニー”の魂胆

 

 どういうことかというと、まずは”ジョージ・W・ブッシュ”が大統領選に出馬する際に、副大統領候補にとの誘いに乗った理由が、この”ブッシュ・息子”は与しやすく、うまく乗せれば、意のままに操り、アメリカ政府の実権を自分が握れるかもしれない考えたからだというのです。

 

 そして、史上稀にみる接戦となったアル・ゴア元副大統領との大統領選を強行に制したブッシュ大統領の政権下で、アメリカ国民にとっては不幸なことに、”ディック・チェイニー”にとってはチャンスとばかりに、”9.11同時多発テロ”が起こります。このことが、”ディック・チェイニー”をさらに悪名高き道へと導くことになります。

 

 ”9.11同時多発テロ”の後、当時のブッシュ政権は、報復のための戦争へと舵を切ることになるのですが、その実際の差配は、ブッシュ大統領を差し置いて、”ディック・チェイニー”と”ドナルド・ラムズフェルド”による画策によるものだというのです。

 

アメリカ政府のウソ

 

 当時のフセイン政権下のイラクに、結局、存在しなかった大量破壊兵器を探すため、アメリカ軍は侵攻しますが、その実、本当の狙いは、世界で5本の指に入る埋蔵量を誇るイラクの石油資源を少しでも有利に手に入れるためだったというのです。

 

 ま、今となっては、結構知られた話でもあるのですが、このようにアメリカ政府を仕向けた影の執政者は、”ディック・チェイニー”と”ドナルド・ラムズフェルド”だったと、この映画では断定しています。

 

 とにかく、この映画は、アメリカ政府にウソをつかせた”ディック・チェイニー”と”ドナルド・ラムズフェルド”は”邪悪(=バイス)”であり、その罪は重いと、とことん糾弾しています。

 

バイス」はコメディ?

 

 この映画では、大統領にまでなった”ジョージ・W・ブッシュ”は、実は出来が悪かったとか、既に副大統領職に就いていた”ディック・チェイニー”が、間違って、狩猟ライフルで知人を撃っても謝らないとか、実話であるはずなのに、なんともブラック・コメディなエピソードが盛りだくさん。

 

 これは、ネタバレになる話でもあるのですが、この「バイス」の語り部は、後に”ディック・チェイニー”に心臓を提供することになる”カート”という人物であることが映画終盤で明らかになります。

 

 このことこそが、この映画が痛烈な風刺を含むコメディであることを示しています。国を戦争に追いやっても、その犠牲となる命についてはたいして関心を払わない、間違って、狩猟ライフルで知人を撃っても謝らない、こんな奴が、こんな奴だからこそ、心臓という重要な臓器を、アメリカ国民から奪ってしまえるというエピソードで、この人物像を痛烈に風刺しています。

 

バイス」と「記者たち~尊敬と畏怖の真実~」の符号が一致


 ここで、もう一つ俎上に上げた映画「記者たち~尊敬と畏怖の真実~」の話をしたいのですが、こちらの映画は「バイス」で描かれたブッシュ政権時のアメリカ政府が、9.11同時多発テロからイラク戦争へ突き進んだ理由が、アメリカ政府のウソが発端であることを暴露しようする新聞記者たちの奮闘を描いた映画です。

 

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 狙ったわけではないと思いますが、奇しくも、この同じテーマを取り上げた2本の映画が同時期に制作~公開されました。

 

 比較してみると、おもしろいもので、「記者たち~」で暴露するアメリカ政府のウソが「バイス」で”隠された真実”の符号にぴたりと合うのです。

 

 このように隠された真実を白日のもとにさらそうとする、実話を映像化したこの2本の映画の符号が合うということは、やはり、当時のアメリカ政府はウソをついていたということに信憑性が高まります。

 

”真実を追い求める”映画


 「バイス」はコメディタッチ、「記者たち~」はシリアスタッチですが、共通するのは両者ともにノンフィクション(実話)と謳っていて、真実を追い求めるというスタンスの映画であるということ。

 

 「バイス」で、制作・監督・脚本に携わったアダム・マッケイが映画の中で真実を語ることに情熱を注いだのと同じように、「記者たち~衝撃と畏怖の真実~」では、世間に真実を伝えることに情熱を注いだ新聞記者たちの奮闘が描かれています。

 

 両作品とも伝えたいメッセージの根底にあるものは同じものであるのがわかります。

 

 「記者たち~衝撃と畏怖の真実~」は”熱い”


 「記者たち~衝撃と畏怖の真実~」の方は、とにかく”熱い”!、熱血漢が揃った記者たちの使命感あふれる骨太のドラマとなっています。

 

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 時の権力や世論に迎合することなく、真実を追求するという記者本来の使命を達成しようとする、反骨精神たくましい男たちの姿が胸を打ちます。

 

 この映画で観客を引き込むうまいやり方として、記者たちが真実を追求する理由に、記者としての本分を全うしたいという自己実現欲求によるものだけではなく、負傷兵として帰国した元陸軍上等兵を登場させ、イラク戦争で命を落としたり、障害者となってしまった若者の犠牲の担保として、国を守ることに貢献できたという真実、アメリカ国民や家族を含む近しい人々を危険から守ったという真実が絶対的に必要なはずなのに、そこにウソがあったという真実が許せない、嘘をついたアメリカ政府が許せないという感情を観る者に起こさせることに成功しています。

 

 そのため、さらに真実を追求するために奮闘する記者たちの姿が、熱く胸を打つことになるのです。

 

真実でもウソでも構わない

 

 そうして暴かれていくアメリカ政府のウソ八百、これは「バイス」で描かれた、”ディック・チェイニー”と”ドナルド・ラムズフェルド”が画策した偽りの真実。

 

 9.11同時多発テロ後のアメリカ政府は、その反撃の矛先を、首謀者と見られるオサマ・ビンラディン率いるタリバンだけでなく、それまで頭痛の種だったフセイン大統領率いるイラクにも向けることに執念を燃やします。

 

 とにかく真実でもウソでも構わない、9.11テロの報復にたぎる国民感情をあおり、イラクに攻め込む口実さえあればいいという姿勢で、タリバンフセインが裏でつながっている証拠が見つからなければ、イラク政府は大量破壊兵器なるものを隠し持っているという偽情報を理由に、イラクに攻め込み、フセイン政権の打倒に成功します。

 

中堅新聞社”ナイト・リッダー”の反骨精神

 

 が、当初からこの情報に異を唱えていたのが、本作で取り上げられている”ニューヨーク・タイムズ”や”ワシントン・ポスト”の一流紙からは下に見られている中堅の新聞社”ナイト・リッダー”だったのです。

 

 このタイミングで、政府の方針に異を唱え、政府のウソを追求するという姿勢をとった新聞社は、前線に立つ記者もそうですが、メディア組織として、そのとても重い責任がかかる決断をしたトップや幹部の勇気も、称賛を惜しむものではありません。

 

アメリカらしさ

 

 ニクソンしかり、トランプしかり、時の政権が国を意のままに操ろうと画策する姿がアメリカらしいと世界の目に映れば、その行使に堂々と疑義を唱えることのできるメディアが存在するというのも、アメリカらしさと言えるのでしょう。

 

 この2作品に限らず、ハリウッド映画には、ケネディリンカーン、ブッシュ、ニクソン等々、アメリカ大統領を筆頭に政治家を題材にした映画、はたまた、マイケル・ムーア監督のように堂々と堂々と現政権批判をする映画がなどが、次々と制作され、公開されています。

 

 こんな風に、政権批判ともとれる内容のエンタ-テインメントが受け入れられてしまうお国柄というのも、アメリカらしさであり、アメリカ国民の懐の深さなのかもしれません。

 

 

 

・「バイス」作品情報

 

◆スタッフ;

・監   督:アダム・マッケイ

・脚   本:アダム・マッケイ

・制   作:ブラッドピット

       デデ・ガードナー

       ジェレミー・クライナー

       ウィル・フェレル

       ケヴィン・メシック

・製作総指揮:ミーガン・エリソン

       チェルシー・バーナード

       ジリアン・ロングネッカー

       ロビン・ホーリー

       ジェフ・ワックスマン

・撮 影 監 督:グレイグ・フレイザー

・美   術:パトリス・ヴァーメット

・編   集:ハンク・コーウィン

・衣   装:スーザン・マシスン

・音   楽:ニコラス・ブリテル

・特殊メイク:グレッグ・キャノン

 

◆キャスト

ディック・チェイニークリスチャン・ベール

・リン・チェイニー:エイミー・アダムス

ドナルド・ラムズフェルドスティーヴ・カレル

ジョージ・W・ブッシュサム・ロックウェル

コリン・パウエル:タイラー・ペリー

・メアリー・チェイニー:アリソン・ピル

・リズ・チェイニー:リリー・レーブ

コンドリーザ・ライス:リサゲイ・ハミルトン

・カート:ジェシー・プレモンス

 

・「記者たち~衝撃と畏怖の真実~」作品情報

 

◆スタッフ;

・監   督:ロブ・ライナー

・脚   本:ジョーイ・ハートストーン

・制   作:ロブ・ライナー

       マシュー・ジョージ

       ミシェル・ライナー

       エリザベス・A・ベル

・撮 影 監 督:バリー・マーコウィッツ

・美   術:クリストファー・R・デミューリ

・編   集:ボブ・チョイス

・衣   装:ダン・、ウーア

 

◆キャスト

・ジョナサン・ランデー:ウディ・ハレルソン

・ウォーレン・ストロベル:ジェームズ・マースデン

・ジョン・ウォルコットロブ・ライナー

・リサ:ジェシカ・ビール

・ヴラトカ:ミラ・ジョヴォヴィッチ

・ジョー・ギャロウェイ:トミー・リー・ジョーンズ

 

 

 


映画『バイス』特報

 


【解説動画】アカデミー賞8部門ノミネート映画『バイス』を町山智浩が徹底解説‼

 


『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』特別映像

 


ロブ・ライナーが「記者たち」携え来日「自由の国として、本作を認めてほしい」 - 映画ナタリー

 

 

 

映画『バイス』 (オリジナル・サウンドトラック)

映画『バイス』 (オリジナル・サウンドトラック)