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勝手気ままな映画レビュー

映画「ある少年の告白」(2019/04/19公開)レビュー

・同性愛矯正セラピーの実態を暴露した映画「ある少年の告白」

 

 実在したという同性愛矯正セラピーの実態を暴露し、全米ベストセラーにもなった衝撃の実話を、俳優としての名の方が知られているジョエル・エドガートンが監督した映画「ある少年の告白」、映画館で観てきました。

 

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・技巧派による秀逸なる演技

 

 「マンチェスター・バイ・ザ・シー」で、オスカーにもノミネートされた演技が記憶に新しいルーカス・ヘッジズが、自身が同性愛者であることに悩みながらも、それを受け入れ、自己を確立していくという難しい役どころを見事に演じ切っていました。

 

 母親役にオスカー女優のニコール・キッドマン、父親役に、これまた、オスカー俳優のラッセル・クロウがキャスティングされ、その演技は文句なしに素晴らしく、悩める家族の姿をリアルに映し出し、ドラマに重厚感を与えています。

 

・つらくとも、ハッピーエンド

 

 内容としては、同性愛を自覚した青年が、家族の勧めで、同性愛を”"治す”矯正施設に入所するも、そこで性的指向を矯正することの理不尽さに気付き、その危険な施設から脱出し、自身の性的指向を受け入れ、家族と訣別することになっても、そのままで生きていくことを決意していく姿を描いたものです。

 

 このお話しは、矯正施設の辛い経験や家族との軋轢を経ても、主人公は人生を取り戻し、成功して、最終的には、葛藤は抱えつつも、その両親は息子を受け入れることができるというハッピーエンドで終わっているので、終盤まではつらくとも、最終的に気持ち良く感動させてくれる映画です。

 

・本当につらいのは...

 

 この映画を観ていて、辛いと感じる要素は、矯正施設の理不尽さや自殺に追い込まれてしまう若者の葛藤とかではなくて、親は子のための、子は親を気遣っての行動が、結局家族をバラバラにしてしまうという現実です。

 

 人を思いやり、良かれと思って取った行動が、自分を殺し、家族を傷つけることになってしまうというのは、ありがちな話なのかもしれませんが、ここまで重い話だと、他人事だとしても、見聞きするのはつらいものがあります。

 

・正しさや間違いの認識

 

 そんな状況をなんとかしたいと思うなら、何故こんな間違いが起こるのかを、自身の愚かさを認める勇気を持って、原因を追究しようとする姿勢が必要です。

 

 この映画の場合、それを、”性的指向なんて治すものじゃない”、”家族は皆、家族の幸せを願っている”、そんな当たり前のことを理解していなかった自身を顧みて、その正しさや間違いを正確に認識したことによって、人生を良い方向に向けることができたという事実で物語っています。

 

・偏見に立ち向かう


 怖いのは、この映画に出てきた性的指向矯正セラピーなるものが現実に存在しているということです。それも、そんな昔の話ではなくて、現在でもしっかりと実施されている実態があるというから、ビックリです。

 

 セクシャル・マイノリティを是としない宗教観、認識、これは”偏見”という言葉に集約されます。そして、この偏見に立ち向かうことは、世の正義といえるのでしょう。何故なら、間違って正道と認識されてしまった偏見を間違いなく偏見であると定義し、それは邪悪なものであると、声高らかに謳っているこの映画に、感動を禁じ得ないのですから。

 

 この映画の最後に見せる、世の偏見に打ち勝った家族の姿は、涙するほどに、なんとも感動的なラストです。

 

・この映画から学ぶべきこと


 この映画は、自分以外の何らかの理由のため、自らを偽ることを強いられようとする者たちを救おうとする映画です。


 この映画から学ぶべきは、セクシャル・マイノリティに限らず、自分の好きなものや嫌いなものを、恋人だろうと、家族だろうと、自分以外の人間に決めさせてはならないということです。


 自分が惹かれたものの中から、正しさや間違いを学んでいけば、そこに自分の歩むべき道が敷かれているはずですから。

 

性的指向分類:LGBTQ;

 

・L:Lesbian (レズビアン)= 女性同性愛者

・G:Gay (ゲイ)=同性愛者の総称

・B:Bisexual (バイセクシャル) = 両性愛

・T:Transgender (トランスジェンダー) = 出生時の性別と異なる性別で生きようとする人

・Q:Questioning(クエスチョニング)=自身の性自認性的指向が定まっていない人

(Q:Queer(クィア)=異性愛がないなど、性を有していない人の総称)

 

・作品情報

 

タイトル:「ある少年の告白」(原題:「BOY ERASED」)(アメリカ)

 

◇スタッフ

監   督:ジョエル・エドガートン

脚   本:ジョエル・エドガートン

製   作:ケリー・コハンスキー=ロバーツ

      スティーヴ・ゴリン

      ジョエル・エドガートン

製作総指揮:レベッカ・イェルダム

      ナッシュ・エドガートン

      キム・ホジャート

      トニー・リップ

      アン・ロアク

撮 影 監 督:エドゥアルド・グラウ

プロダクションデザイン:チャド・キース

衣   装:トリッシュ・サマーヴィル

編   集:ジェイ・ラビノウィッツ

音   楽:ダニー・ベンジー

      ソーンダー・ジュリアーンズ

音 楽 監 修:リンダ・コーエン

原   作:ガラルド・コンリー

 

◇キャスト

ジャレッド・イーモンズ:ルーカス・ヘッジズ

ナンシー・イーモンズ:ニコール・キッドマン

マーシャル・イーモンズ:ラッセル・クロウ

ヴィクター・サイクス:ジョエル・エドガートン

ブランドン:フリー

ヘンリー:ジョー・アルウィン

ジョン:グザヴィエ・ドラン

ゲイリー:トロイ・シヴァン

マイケル:デヴィッド・ジョセフ・クレイグ

ゼイヴィア:セオドア・ペレリン

マルドゥーン医師:チェリー・ジョーンズ

 


映画『ある少年の告白』予告編(90秒)

 


『ある少年の告白』監督・キャストが本作への熱い想いを語る