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勝手気ままな映画レビュー

映画「半世界」(日本、2019/02/15公開)レビュー

阪本順治監督・脚本の邦画「半世界」観てきました。

 

https://www.instagram.com/p/BxB3TBSpAS1/

稲垣吾郎主演、阪本順治監督・脚本の映画「半世界」、まだ、上映してるとこがあったので、観てきました。駆け込みセーフというタイミングで、映画館で観れました。 「お前のことは、お前よりもよく知っている」なんて言ってくれる友だち、いたらイイなぁ。息子に向かって、心情を吐露したあと、「こんなのでいいか」と問いかけると、息子は返事に「許してやるよ。」って、なんともステキな親子の会話。人は抱えきれないほどの罪悪感を抱えてしまったときに、周りにいる人間の存在の大切さを思い出す。そんなことを諭すような、辛く、悲しい話なのに、3人の同窓生の友情を優しい目で、暖かく見つめようとする自分に気づかされる映画です。

 

 少々、”遅ればせながら”になってしまいましたが、劇場で観ることのできた阪本順治監督・脚本の邦画「半世界」のレビューを俎上に載せたいと思います。

 

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「半世界」、渋川清彦、稲垣 吾郎、長谷川 博己


 阪本順治監督26本目の長編映画作品ということで、日本映画界にとっては、もう、過ぎるほどに重鎮の立場にある阪本順治監督が、オリジナルの脚本を引っ提げて、自身のルーツとは言わないまでも、自身が上京する前に育った地方の環境に思いを馳せて、撮った映画ではないかと思います。


・意味深なタイトル「半世界」

 

 意味深なタイトル「半世界」とは、劇中のセリフからすると、いわゆるグローバルな世界を知る者と日本のそれも地方の田舎しか知らない者を二分する言葉としてとらえるのが自然なのかもしれませんが、そう単純なものでもなく、様々なとらえ方ができるかと思います。

 

 ”世界”といっても、広大さやステ-タス感ではなく、大人なら誰しも大なり小なり、経験や知識から、相反する世界観を内に秘めていたりします。それが、時間的な経過から生じるものなのか、場所によって隔てられるものなのか、人によって様々なものでしょう。

 

 この映画で描かれる”世界”とは、生まれ故郷に残った者、故郷から出て行った者それぞれが抱える”世界”には、どちらにも、そこには愛や希望があり、同時に憎しみや絶望もある、そんな当たり前のことを、地方の田舎で育った3人の幼馴染が再会することによって、優しい視線で浮き彫りにしていきます。


・キャスト陣について、

 

 主役には、いままでにない役柄で、これまで見せたことのない演技を見せる稲垣吾郎さん、やはり、見た目はカッコいいのだけれど、そのオーラを消し、田舎で炭焼き職人として、家族を支えるお父さん役が、意外にもしっくりとはまっていました。

 

 その親友の一人で、心に大きな罪悪感を抱え、苦悩しながらもなんとか前を向こうとする元自衛官長谷川博己さん、演技派と呼ばれるようになって久しく、その冠に見合った巧みな演技を見せています。

 

 人の気持ちに敏感な性格からか、図らずも、この2人をつなぐような役回りを担ってしまう心優しいもう一人の親友に、今や、バイプレイヤーとして引く手あまたの渋川清彦さん、このメイン3人が気心の知れた友達同士であるという自然な雰囲気は渋川清彦さんがいなければ、出せなかったかもしれません。

 

 そして、主人公の妻役に、天才肌の女優池脇千鶴さん、夫を愛する妻であり、家族を支える母であり、ときに叱咤しながらも、正しい道を模索しながら息子の成長を促す、愛情あふれるたくましい女性を、演技とは思えないほどの自然な振る舞いで、魅了してくれます。


・ストーリーとしては、

 

 ストーリーとしては、人生の折り返し点といっていい不惑の年齢に達した幼馴染3人が、その内の一人である海外派遣で心に傷を負った元自衛官が故郷に戻ってきたことによって再会し、それぞれが抱える葛藤や苦悩を少しづつ吐露していき、お互いの人生に少しずつ口を出すような感覚で、お互いを気遣い、世話を焼きながら、そのお互いの存在によって、それぞれが自分の人生を見つめ直すことになるといったお話しです。

 

 父親の跡を継いで炭焼き職人として生きる者、家業の中古自動車販売店を経営する者、自衛官になるため故郷を出て行ったものの帰郷せざるを得なかった者、日本の地方であればこそのありそうな設定だと思えます。

 

 多少のセンセーショナルな展開も見せますが、決してドラマチックな物語ではなく、こんなこともあるだろうと思える、日本の地方で地に足をつけて生きる普通の人達を、その心のひだを丁寧に描いた作品です。


・幼馴染3人の絆

 

 人生の折り返し点を迎えた3人の幼馴染、生まれ故郷に残った者、出て行った者、それぞれの世界があるのは当たり前、それでも幼いころから培った絆はなくならない。

 

 幼馴染とはいえ、お互い知られたくないこと、見せたくないことなど、多々あるでしょう、それでも心の奥底ではわかって欲しいと思っている自分がいることを、この友情は気づかせようとします。

 

 「お前よりも、お前のことはよく知っている」なんて、言ってくれる友達がいたら、なんて素敵なことでしょう。こんなセリフが自然と耳に入ってくる映画って、やっぱりいいものですね。


・様々な捉え方のできる映画

 

 本作品は、タイトル同様、様々な捉え方のできる映画です。


 3人の幼馴染の友情を描いた友情物語であり、地方で実直に生きる家族の愛情物語でもあり、心に大きな傷を負った男の再生物語でもある。

 

 そして、それぞれの物語が絶妙に絡み合いながらも、もつれずに、それぞれの人間ドラマを見事に浮き彫りにすることに成功している脚本です。


 なんというか、この映画を観ると、自分の人生を見つめなおすきっかけになるとでもいうか、自分の周りの人間に対して、温かく見守るとか、優しい視点をもつことができるようになりそうな映画です。

 

・作品情報

 

タイトル:「半世界」(日本、2019/02/15公開)

 

◆スタッフ;

・監督:阪本 順治
・脚本:阪本 順治
・製作総指揮:木下 直哉
・エグゼクティブプロデューサー:武部 由実子
・プロデューサー:椎井 友紀子
・音楽:安川 午郎
・音楽プロデューサー:津島 玄一
・撮影:儀間 眞悟
・照明:宗 賢次郎
・録音:藤本 賢一
・美術:原田 満生
・編集:普嶋 信一
スクリプター:今村 治子
・衣装:岩崎文男
・ヘアメイク:宮崎 智子
・装飾:石上 淳一
・擬斗:二家本 辰巳
・助監督:小野寺 昭洋
・制作担当:松田 憲一良

 

◆キャスト;

・高村紘:稲垣 吾郎
・沖山瑛介:長谷川 博己
・岩井 光彦:渋川清彦
・高村 初乃:池脇千鶴
・岩井麻里:竹内 都子
・高村明:杉田 雷麟
・池田:信太 昌之
・奈月:菅原 あき
・津山:堀部 圭亮
・恩田:岡本 智礼
・白川:原田 麻由
・藤吉郎:牧口 元美
堅田:マレロ 江口 剣士朗
・江本:大浦 彰希
・泉:大橋 逸生
・黒井:中津川 巧
・北見:芳野 史明
・上村:上ノ茗 真二
・久島:西沢 智治
・横川:保科 光志
・岩井豊子:井谷 三枝子

  

 

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半世界 (キノブックス文庫)

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キネマ旬報 2019年2月上旬号 No.1801

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『半世界』予告編|Another World - Trailer HD

 


『半世界』メイキング&稲垣吾郎・長谷川博己・池脇千鶴・渋川清彦・阪本順治監督インタビュー

 


半世界 公式インタビュー|Another World Official Interview