映画「ブラック・クランズマン」(2019/03/22公開)レビュー
スパイク・リー監督の放つ衝撃作「ブラック・クランズマン」
アメリカにおける人種差別をテーマにした代表作「ドゥ・ザ・ライト・シング」や「マルコムX」などで知られる映画監督スパイク・リーが放つ、これまた、切れ味鋭い映画「ブラック・クランズマン」を観てきました。
スパイク・リーとしては、この「ブラック・クランズマン」で、同じ反人種主義をテーマにしつつも、この映画と対局をなす映画「グリーンブック」にアカデミー賞作品賞をかっさらわれたカタチになってしまったのは、よっぽど悔しかったろうなと、容易に想像がつきます。
そういえば、カンヌ国際映画祭でも、最高賞パルムドールは日本が誇る是枝裕和監督作品「万引き家族」に獲られ、その次点となるグランプリを受賞しましたね。スパイク・リーは、賞レースではあまり運のよくない映画監督なのかもしれません。
・スパイク・リーという映画監督
スパイク・リーという映画監督は、自身のルーツがアフリカ系アメリカ人ということが、色濃く影響している作品ばかりという印象が強いかもしれませんが、意外とそうでもなく、日本で公開されてない作品も多く、商業主義的な映画も結構撮っていたりします。
スパイク・リーが映画監督という立場で、ライフワークとして取り組む、その反人種主義というテーマは、勧善懲悪でなく、生真面目な作風でもなくて、現実を知らしめるために、おもしろく驚かしてやろうというスタンスで映画を撮っているのではないかと思います。
・これは,本当に実話?
はてさて、奇想天外な内容のこの映画はフィクションとしか思えないストーリーなのですが、フレコミによるとどうやら実話ということらしいのです。
確かに、実在する元KKK最高幹部で、政治家のデービット・デュークがキャラクターとして出てきていますし、原作著作は主人公と同じロン・ストールワースがクレジットされていますので、ほぼほぼ実話なのだろうと納得はするのですが、1970年代のアメリカ南部で、黒人の捜査官が白人捜査官とタッグを組んで、白人のフリをして、悪名高い白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)に潜入捜査するなんて、ありえなさ過ぎて、コメディのネタとしても、採用しなさそうなお話しです。
・実話だからこそのおもしろさ
結局のところ、実話だからこそ、成立する面白さではあるのですが、スパイク・リーの演出によって、その奇想天外さに磨きがかかって、おもしろおかしくも、リアリティは失わずに、こんなバカげたお話しでも、事実として現実にあった物語として、その根底に流れる人種差別、白人至上主義への批判というメッセージもしっかりと伝えてくる見事な映画です。
どこまでが真実で、どこからがフィクションかという判別をしたくなりますが、どうやら、おもしろおかしくするためのエピソードのほとんどは、スパイク・リーによるフィクションのようで、事の起因となるロン・ストールワースという黒人が、1978年にアメリカ南部のコロラド州コロラドスプリングスで初の黒人警官となり、1978~1979年にかけて白人警官を使って、白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)への潜入捜査をしたというのは本当の話のようです。
ま、このお話しの肝となるこのことこそ、ありえない話ではあるのですが...。
・自身のアイデンティティを自覚
話の持っていき方がうまいなと思うのは、主人公が黒人であるという自身のアイデンティティを利用しながら、黒人解放運動を過激に展開するブラックパンサー党へ潜入捜査する過程で、その女性幹部と恋仲になり、このアメリカ社会の中での自身のアイデンティティがどういった立場のものなのかをはっきり認識していく姿も描かれているところです。
そして、ロンの相棒としてKKKに潜入する、アダム・ドライバー演じる白人捜査官フリップ・ジマーマンも、これまで気にしていなかった、自身がユダヤ系アメリカ人であるということを、白人至上主義団体KKKと関わることで、こちらも自身のアイデンティティを自覚していく姿が描かれています。
この主人公の相棒となる白人捜査官をユダヤ人に設定したというアイデアも素晴らしいですね。このおかげで、反人種主義というテーマが広がりを持つことになり、こういった理不尽な境遇に陥るのは、黒人だけのことでなく、映画を観ている者が、人種や国の別なく、もしかしたら自分にも当てはまることかもしれないと気付くことになるのです。
・「アメリカ・ファースト」って...?
この映画の中で実際の話としてクローズアップされているのが、現アメリカ大統領が掲げる「アメリカ・ファースト」というスローガンが、実は、白人至上主義団体KKKの最高幹部”デービット・デューク”が「白人だけのアメリカ”を目指す」という意味で、同じ言葉をスローガンに掲げていたということ。
人種主義と国粋主義は相通じるものらしく、人種や民族によって、人間を区別/差別してきた人間の愚かさが、民主主義で保障される人権の公平さを脅かすことになるということを認識すべきと、この映画は訴えています。
・この映画の発するメッセージとは
この映画は、黒人捜査官が自分自身でもある黒人を侮蔑する言葉を吐きながら、政治的にも力をつけてきた白人至上主義団体KKKをだますという痛快さが楽しいのですが、最後に流れる人種差別に端を発する現実の事件映像からもくみ取れるように、この映画からは、「人種主義の台頭は悪である」という強いメッセージが浮かび上がります。
時代によって、倫理観や世論は変わるとはいえ、社会的に迫害された側は、どんなに時が流れようとも、その被害者意識が消えることはほとんどありません。そういった現実から、より良い世界を目指すために、こういった社会的メッセージのあるエンタテインメントは、まだまだ不可欠な世の中なのでしょう。
何が正義なのか、何が悪なのか、何が優秀なのか、何が愚行なのかといった人間としての普遍的な価値観を共有できるようになるために、こういった映画は作られ続けることになるのでしょう。
・作品情報
◆タイトル:「ブラック・クランズマン」(原題:「BLACK K KLANSMAN」)
◆スタッフ;
・監 督:スパイク・リー
・製 作:スパイク・リー
ショーン・レディック
ショーン・マッキトリック
レイモンド・マンスフィールド
・製作総指揮:エドワード・H・ハム・ジュニア
ジャネット・ヴォルツゥルノ
ウィン・ローゼンフィールド
マシュー・A・チェリー
・脚 本:スパイク・リー
チャーリー・ワクテル
デヴィッド・ラビノウィッツ
ケヴィン・ウィルモット
・撮 影 監 督 :チェイス・アーヴィン
・編 集:バリー・アレクサンダー・ブラウン
・美 術:カート・ビーチ
・音 楽:テレンス・ブランチャード
・衣 装:マーシー・ロジャーズ
(原 作:ロン・ストールワース著『BlacK Klansman』)
◆キャスト;
・ロン・ストールワース:ジョン・デヴィッド・ワシントン
・フリップ・ジマーマン:アダム・ドライバー
・デービッド・デューク:トファー・グレイス
・パトリス・デュマス:ローラ・ハリアー
・クワメ・トゥーレ:コーリー・ホーキンス
・ウォルター・ブリーチウェイ:ライアン・エッゴールド
・フェリックス:ヤスベル・ペーコネン
・アイヴァンホー:ポール・ウォルター・ハウザー
・コニー:アシュリー・アトキンソン
・ボーリガード博士/ナレーター:アレック・ボールドウィン
・ジェローム・ターナー:ハリー・ベラフォンテ
映画評論家の町山智浩さんが映画『ブラック・クランズマン』を徹底解説‼
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