映画「THE GUILTY ギルティ」(2019/02/22公開)レビュー
観客賞総なめの映画「THE GUILTY ギルティ」
少し前になりますが、各国映画祭で観客賞を数多く獲得した映画「THE GUILTY ギルティ」を観ました。
・音声のみによる展開
この映画は、電話から聞こえてくる音声だけで物語が展開し、その展開に翻弄され、正しいのか正しくないのか不明確なまま判断を迫られる主人公の姿に、観る者は固唾を飲んで、事の成り行きを追いかけることになる、初めから終わりまで、全編緊迫感だけで構成されている映画です。
なので、上映中は一時も気を抜くことができません。一瞬も目を放すことができず、声だろうと物音だろうと、何も聞き漏らしてはならないと、スクリーンに集中させられてしまいます。
グスタフ・モーラー監督のインタビューに「タクシー・ドライバー」(1976)と「狼たちの午後」(1975)を参考にしたという話があるのですが、”なるほど”と納得です。鬼気迫る展開の背景にある雑多な風景、リアルタイムで物語を追随する臨場感、これらを音声だけでどうやって伝えるか、試行錯誤しながらこの映画を作ったであろうことがよくわかります。
・予測不可能な展開
ストーリーの構成としては、シンプルな設定で”電話のやり取りだけで、誘拐事件を解決しようとする緊急通報電話オペレーター(刑事)の話”となるのですが、このシンプルさ故に、予想を裏切る展開が次から次へと押し寄せてくる様は、結末がどうなるのか全く予想できないまま、このストーリーに引き込まれていきます。
この予測不可能なシチュエーションを電話からの音声だけの情報で把握しようとする主人公の姿は、観る者が自分をこの主人公と重ね合わせ、異常なほどに想像を掻き立てられる映画表現となっています。
そして、その想像をはるかに超えてくる展開が、おもしろくてたまりません。似たような設定の映画は結構多くありますが、ここまでのドキドキ感を感じさせてくれたサスペンス映画は、初めてかもしれません。
・タイトル「THE GUILTY ギルティ」に込められた意味
以上のように想像を掻き立てられた観客は、この映画が思いもよらない結末を迎えたとき、この映画のタイトルが”ギルティ”=”有罪”とつけられた理由を理解します。
人として許されない罪を背負うということは、どういった行為が当てはまるか、罪は罪でも、仕方のない理由、同情すべき事情などがある場合、どこまでが許されるものなのか、などと答えの出そうにないクエスチョンが、この映画を観た者に突き付けられることになるのです。
・映画との出会い
この映画は、たった一人のキャラクター、音声だけで展開する起承転結、このシンプルさにもかかわらず、サスペンスとしてこれまでにない緊迫感を味わわせてくれる映画であり、たった一人の姿からにもかかわらず、善行も悪行もときとしてやってしまう人間の業を見せてくれる人間ドラマでもあります。
観ているだけで楽しいハリウッド大作などとは一線を画す北欧系サスペンスは、”この映画を観て良かった”と、映画との出会いをしみじみと喜ぶことができます。
・作品情報
タ イ ト ル:「THE GUILTY ギルティ」(原題:「THE GUILTY」)
制 作 国:デンマーク
監 督:グスタフ・モーラー
脚 本:エミール・ナイガード・アルベルトセン
製 作:リナ・フリント
撮 影:ジャスパー・スパンニング
編 集:カーラ・ルフェ
音 楽:オスカー・スクライバーン
出 演:アスガー・ホルム:ヤコブ・セーダーグレン
イーベン:イェシカ・ディナウエ
ミケル:ヨハン・オルセン
ラシッド:オマール・シャガウィー
・受賞歴
第44回シアトル国際映画祭 :監督賞
第23回ストーニ-・ブルック映画祭 :観客賞
第15回バルト・デビュー映画祭 :作品賞
第15回ミシュコルツ国際映画祭 :エメリック・プレスバーガー賞
国際エキュメニカル賞
ゴールデン・ブロゴス賞
第32回ワシントンDCフィルムフェスト:査員賞
第42回ロッテルダム国際映画祭 :観客賞
ユース審査員賞
第14回チューリッヒ映画祭 :審査員賞
第7回モントクレア映画祭 :観客賞
第26回カメリメージ映画祭 :最優秀監督デビュー賞
第17回トランシルヴァニア国際映画祭:観客賞
第59回テッサロニキ国際映画祭 :観客賞、男優賞
第27回フィラッデルフィア映画祭 :特別賞